活動について
各地域での活動
活動レポート
- 地元への深い愛情が人々を「絆」で結ぶ
- 郷土料理の商品化で食文化をつなぎ地元に誇りを取り戻す
- 人々の想いが新たなブランドを創り出す
- 被災した工場が被災地を応援するという取り組み
- 鯉ブランド復興にオール郡山で取り組む
- 宮城県の食材のファンを作る試み
フィッシャーマン・ジャパン贈呈式レポート 若手漁師が次世代の漁業作りに挑む (3/3)
若手漁師だからこそできること
事業方針の発表が終了すると、「復興応援 キリン絆プロジェクト」の贈呈式の時間となった。
はじめに、キリンビールマーケティング株式会社の小西弘晃・宮城支社長から、主催者挨拶が行われた。
「本日の贈呈式、誠におめでとうございます。今回のプロジェクトで驚いたのは、宮城県内の色々な浜=地域で活動する皆さんが、協力していることです。違う浜の漁師が集まって何かをやる。こんなことは宮城県の伝統的にも歴史的にも、あまりありませんでした。これから皆さんがブレークスルーを起こし、新たな価値を創造してくれると期待しています。日本全国の飲食店や量販店と取引があるキリングループとしても、皆さんが生み出す商品の販路拡大やブランド向上に、少しでもお役に立てるよう、協力していければと考えています」
ブレークスルーと新たな価値の創造に期待を寄せる、
キリンビールマーケティング株式会社の小西・宮城支社長
また、日本財団での前田晃・常務理事からも主催者挨拶が行われた。日本財団はキリングループが拠出した寄付金で基金を創設し、支援金の助成を行うことで被災地の水産業支援をサポートしている。
「震災で東北の水産業は大きな打撃を受けました。世界三大漁場(注1)のひとつとして知られる三陸も、これからどう復興していくかが課題です。漁業の後継者が少ないというのも大きな課題のひとつでしょう。漁師はときに嵐の中でも命がけで漁をする、危険な職業でもあります。その背景には、おいしいものを提供したい、仕事の責務を全うしたい、などの素晴らしい思いがあるわけですが、若い人がなかなか来てくれないのも事実です。ぜひカッコよく、儲かる漁師を実現して、後継者を増やしてほしいと思います」
漁業の後継者を増やすことを待望する前田・常務理事
続いて、キリン株式会社CSV推進部キリン絆プロジェクトの野田哲也・リーダーより、贈呈内容の説明が行われた。今回、フィッシャーマン・ジャパンに助成される2千万円の支援金は、高付加価値加工品の開発、ブランディング活動、販路拡大、情報発信、担い手育成などに活用される。
贈呈内容の説明が終わると、キリンビールマーケティング株式会社の小西・宮城支社長と日本財団の前田・常務理事から、フィッシャーマン・ジャパンで共同代表を務める赤間さんと阿部さんに目録が贈呈された。
目録の授受を行った左から小西・宮城支社長、阿部さん、赤間さん、前田・常務理事
目録を受け取った赤間・共同代表は、支援金に対する感謝や応援してくれる方々へのお礼を述べるとともに、団体メンバーに対する思いを語った。
「震災をきっかけに、東北には大勢の人が訪れ、私たちも様々なアドバイスを頂きました。多くの出会いと、その出会いがもたらしてくれた恩恵には、感謝の言葉しかありません。実は、東の食の会さんが開いてくれた三陸フィッシャーマンズ・キャンプに、最初は少し懐疑的でした。勉強会をして参加者がプレゼンをすると聞き、自分のビジネスプランを横取りされるのではと疑ったものです。でも、そんなことは全然ありませんでした。むしろ、他の参加者と交流を深めるうちに、震災後に悩み苦しんでいるのは自分だけではないと知りました。具体的な仕事の悩みについては、解決方法を教えてくれたりするなど、次第にお互いが助け合うようになりました。そして今日に至るのです。団体のメンバーと協力してくれる仲間に、心から感謝すると同時に、これからも一緒に頑張っていきたいと思います」
様々な支援や協力に対して感謝を表明する赤間さん
目録の授受が終わると、キリン株式会社CSV推進部の栗原邦夫・執行役員CSV推進部長より、激励のメッセージも贈られた。
「一人ぼっちじゃできないけれど、志ある仲間が集まることで無限の可能性が広がる。そんなプロジェクトにキリングループも関われて嬉しく思います。本日、会場にお越し頂いた皆さんも含めて、人々の絆が深まることで、日本は益々よくなるはずです。その意味でも、フィッシャーマン・ジャパンの皆さんにはカッコよく、しっかり稼いでもらって、後に続く担い手作りにも励んでほしいと思います。まずは漁師の日本代表を目指して、そしていつの日かメジャーリーガーになれるよう、頑張ってください」
絆の大切さについて語る栗原・執行役員CSV推進部長
そして贈呈式が終了すると、試食会の時間となった。
試食会がお昼どきだったこともあり、会場にはランチメニューとして料理が登場。団体のメンバーが生産するホヤ、ホタテ、カキ、のり、穴子、タコを使用した「三陸パエリア」、「ホヤ出汁とアカモクの冷製スープ」、「ワカメのサラダ」、「蒸しホヤ」、「ホヤティーヤ(トルティーヤ)」の5品が、ランチらしくお弁当の形で提供された。
試食会に登場した5品のランチメニュー。参加者にはランチパックのようなお弁当の形で提供された
このランチメニューは、石巻市にある人気カフェやホヤの同好会と共同で開発。若手漁師と地元の人たちとのコラボレーションが、存分に活かされている。
参加者たちはテーブルを囲みつつ、団体のメンバーから料理の開発過程や素材として使われている海産物にまつわる話を興味深く聞きながら、ランチメニューを味わっていた。
試食会の料理を味わう参加者たち
「私たちは平均年齢も30歳そこそこで、漁師としてはまだまだ若輩者ですが、そんな若手がたくさん集まることで、多くの可能性が広がると思います。そもそも、ライバル同士が協力して団体まで作ることができたのも、特定に考えに固まっていない若さがあったからかもしれません。また、例えば悪天候などにより飲食店や量販店と契約している海産物を水揚げできない浜があるとき、他のメンバーの浜にお願いすることも可能になります。キリングループをはじめ多くの支援者の方が応援してくれるのも、本来はライバルである若手漁師が集まることに、可能性を見出してくれたからだと思います。これから事業が拡大していけば、今の13名のメンバーだけでは生産が追いつかなくなるでしょう。今後はメンバーを増やしたり、新たな協力者を募ることも行う予定です。当面のメンバーは、宮城県の漁師だけになりますが、私たちの成功事例を見て、他の地域でも同様の動きが起これば嬉しいですね」
赤間さんによれば、フィッシャーマン・ジャパンの活動は漁業者に限らないという。海産物の生産から商品化、そして小売りまでをつなげられるよう、水産業の6次産業化(注2)を進めることも団体の目標に掲げている。実際、定期開催している朝市はショッピングモールの協力を得て行われているし、試食会で提供されたランチメニューは飲食店と共同開発したものだ。
宮城県の若手漁師たちが、地域の枠を越え、ライバルの枠を越え、そして今では水産業という業種の枠まで飛び越え、新しい価値を生み出そうとしている。彼らはこれからさらにカッコよく、稼げる漁師へと成長し、後に続く若者たちの道しるべとなってくれることだろう。
若手漁師たちが力を合わせて頑張ります!
(注1)世界三大漁場とは、ノルウェー沖の「北西ヨーロッパ海域」(北海)、カナダ・ニューファンドランド島沖の「北アメリカ北東岸海域」、そして日本の「三陸沖」の3つの漁場を指す。
(注2)第1次産業である農林水産業が、農林水産物の生産だけにとどまらず、それを原材料とした加工食品の製造・販売や観光農園のような地域資源を生かしたサービスなど、第2次産業や第3次産業にまで踏み込むこと。
取材協力/有限会社パワーボール、写真撮影/和田剛